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東京高等裁判所 昭和57年(ネ)2753号 判決 1984年7月26日

控訴人兼附帯被控訴人 オーツカ株式会社

右代表者代表取締役 宮瀬豊

右訴訟代理人弁護士 柏木薫

清塚勝久

山下清兵衛

池田昭

小川憲久

松浦康治

被控訴人兼附帯控訴人 高野常廣

右訴訟代理人弁護士 宮崎英明

右訴訟復代理人弁護士 逸見剛

主文

一  原判決中、控訴人敗訴の部分を取消す。

二  被控訴人の請求を棄却する。

三  本件附帯控訴を棄却する。

四  訴訟費用は第一、二審ともすべて被控訴人の負担とする。

理由

一  被控訴人が本件各手形(六通)を所持していること、右各手形の第一裏書人欄に「オーツカ株式会社東京営業所所長 井下雅夫」という記名押印による裏書がなされていること、右裏書は、控訴人の被用者で控訴人の東京営業所長である井下が被控訴人主張の日時になしたものであること、及び井下には本件各手形に裏書をする権限が付与されていなかつたことは、いずれも当事者間に争いがない。

二  井下が本件各手形の第一裏書欄にした「オーツカ株式会社東京営業所 所長井下雅夫」名義の裏書は、井下が控訴人を代理して裏書をしたことを表示するものと解することができる。

三  そこで、井下の右各裏書が、控訴人の事業の執行につきなされたものであるかどうかにつき検討する。

1  控訴人の事業内容、営業所の業務内容、営業所長の権限、井下が本件手形裏書をなすに至つた経緯については、次のとおり付加、訂正のうえ、原判決の理由説示中、九枚目裏三行目の「甲第一号証」から一八枚目表二行目までを引用する。

1 九枚目裏五行目の「裏書人欄が」を「裏書は、」に改める。

2  同六行目の「被告」から七行目の「とおりである。」までを「なしたものであることは、先に認定したとおりである。」に改める。

3~4≪省略≫

5 一一枚目表六行目の「毎月七〇万円」を「毎月七五万円」に改め、七行目及び八行目から九行目の各「など」を削る。

6 一一枚目裏末行の「与えてはおらず、」の次に「井下は銀行から約束手形用紙の交付を受けたことも、約束手形を振出したこともなく、」を、「また、」の次に「控訴人は井下に」をそれぞれ加える。

7 一三枚目裏一行目の「大商社」を「伊藤忠、三井物産等の大商社」に改め、同三行目の「取引先に」の次に「直接」を加える。

8 一四枚目裏九行目の「しかし……」から一五枚目表二行目までを削る。

9 一五枚目裏三行目の「の依頼に応じて」を「依頼され、控訴人とビートルとの間には直接の取引関係はなかつたけれども、控訴人の取引先である那須産業の社長を兼ねる若森清(以下「若森」という。)の強い懇請でもあり、かつ、若森が井下に対しては絶対迷惑をかけるようなことはしないと誓約したため、遂に同人の右依頼に応ずることとし、」に改める。

10 一五枚目裏六行目の「資金繰りのために」の次に「(ビートルは次第に金融逼迫し、やがて自転車操業へと移行して行つたが、井下としてはもはや右悪循環から逃れる術もなく、)」を加える。

11 同九行目から一〇行目の「裏書をした。」の次に「、右各裏書は、いずれも井下が本社には無断でなしたもので、若森はそのことを熟知していたが、他方本社は、井下の裏書権限の有無や取引の裏付け等につき何らの照会を受けたことはなかつたのでこれらの手形が不渡となり、控訴人に遡求権が行使されるまで、井下の右裏書の事実を知らなかつた。」を加える。

12 一六枚目表四行目の「……ことがあつたが、」から五行目の「全くなかつた。」までを「こともあつた。」に改める。

2 以上によれば、営業所は、所長である井下と同人を補助する女子事務の二人をもつて構成され、井下がその所長として担当する対外的業務は、控訴人の商品に対する注文(左右取引分を含む。)を本社に取次ぎ、その代金支払のために振出された約束手形又は小切手を受領して本社に送付することに尽き、井下には、商品の価格を決定し、控訴人を代理して商品の売買契約を締結し、又は商品代金支払のため手形又は小切手を振出す権限はもとより、受領した手形を取立て、もしくはこれを割引くなどの権限も一切与えられてはおらず、又過去にそのような行為をしたこともなく、わずかに本社から営業所の経費支払のため毎月送金されてくる金七五万円の範囲内で、家賃の支払又は現金化のための小切手を営業所名義で振出す権限を与えられていたに過ぎず(従つて、営業所の実態は、商法上の支店からは、はるかにかけ離れた、いわば営業担当社員の駐在事務所ともいうべきものである)、他方、井下が控訴人に無断でなした本件各手形への裏書は、これにより本件各手形の信用をつけ、その割引を容易にするためのものであつて、右各手形の額面金額も、控訴人が営業所の経費として毎月送金する額をはるかにこえるものであつたから、右裏書は、被控訴人との関係においても、とうてい外形上、井下の職務の範囲に属するものということができないことは明らかであり、このことは、井下が控訴人には無断で継続的に裏書をし、その手形が不渡となつた後、一部を井下が買戻したことにより左右されるものではない。

四  よつて、民法七一五条に基づく被控訴人の子備的請求は、その余の点を検討するまでもなく理由がないから、原判決中、被控訴人の予備的請求の一部を認容した部分は失当としてこれを取消し、右請求を棄却することとし、原判決中、右予備的請求を棄却した部分に対する被控訴人の本件附帯控訴は理由がないから、これを棄却する

(裁判長裁判官 野﨑幸雄 裁判官 山下薫 浅野正樹)

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